鳴子温泉についての雑記帳の後編です。
(1)お湯の管理について
前編で鳴子のお湯のよさを書きましたが、実はその裏では良い状態のお湯をお客さんに味わってもらうために、我々が想像している以上に旅館の方々が努力をしているということはあまり知られていないのではないでしょうか。
鳴子温泉の源泉はかなりの高温で湧出しているものが多いため、お湯の管理には各旅館とも想像以上に気を使っています。常々私は源泉に水を足すのはけしからんと批判していますが、旅館の方でも出来る限り水を足さずに源泉のままの状態で湯船に湯を満たす努力をしています。源泉を複数のタンクに溜めて湯を冷ましたり、熱交換で湯を冷ましたりと源泉の良さを損なわないよう工夫している旅館が圧倒的に多いのが事実です。
また、鳴子の温泉は湯の成分が濃いためパイプが直ぐに詰まってしまい数ヶ月に一度はパイプの交換をしなかればならない旅館もあるようです。ちょうど交換作業をしている現場を見学する機会がありましたが、源泉温度が100度近い温泉でのその作業はかなり大変かつ危険そうでした。ただ鳴子の場合、源泉湧出地が旅館の敷地内にあることが多いため、送湯する距離そのものが短いのが救いと言えば救いと言えます。最も安易である加水して湯船に湯を張るということをしない旅館の姿勢には感動させられました。鳴子のちゃんとした旅館で加水されていたら、止むに止まれぬ事情で加水しているか、お客が勝手に水を足したと理解した方が良いようです。
ある旅館でお湯を管理している番頭さんが「うちの旅館の湯は一滴も水を足していないよ。湯の質には絶対の自信がある」と目を輝かせて話をしてくれましたがとても説得力がありました。大手温泉ホテルの中には循環&濾過&加水しているところがありそうですが、中規模以下の旅館や湯治主体の旅館はお湯の管理をおろそかにすると長年通っている常連さんに直ぐに分かってしまうので、なかなか手が抜けません。
(2)旅館の経営について
温泉巡りをしているうちに何人かの旅館の社長さんと話をする機会がありましたが、現在鳴子温泉が抱える問題点が浮き彫りになってきました。一つには客足が減少していることがあげられます。基本的に鳴子は紅葉の時期から年末年始・スキーシーズンまで賑わいますが、ここ数年宿泊客は減る一方だということでした。スキー目当ての客が減少しているのも一因であると思われますが、長年恵まれすぎてきた環境によりぬるま湯に浸かりすぎ時代の進歩から取り残されてきているのではないかというのが結論でした。鳴子は歴史もあり・ロケーションにも恵まれ、放っておいてもお客が押しかける状況が長年続き営業努力をする必要がなかったのだそうです。
湯治中心で固定客主体の宿でも以前に比べ確実に客足は減少しており、また滞在期間も短縮傾向にあるようです。更に一般のお客も特別鳴子の温泉の泉質にこだわる人々でもない限り、リピーターの確保が難しくなってきています。特に気になるのが日帰り客をあまり大切にしていないと言う点です。入浴のみを受け付ける旅館は多いのですが、ゆったり休憩して半日のんびり過ごせる旅館はきわめて少ないように見受けられます。首都圏の日帰り温泉ブームを考えると完全に鳴子は乗り遅れているかもしれません。
しかし今回お話を伺うことのできた若手の社長さん達は適切に現状の問題点を認識しておられ、前向きに取り組んでいくという姿勢が鮮明に見られたのが心強いです。特に、今まで湯治中心でしたが一般人あるいは、全国区の客を集めるべく、伝統的かつセンスの良い旅館に変身したり、湯治宿を継続するものの、若者がペンション感覚で利用できるようにも心配りを行うといった改革を行っている様を実際に目の当たりにすると必ずや落ち目と言われる鳴子温泉も復活する日も近いと思いたいです。
(3)行政の問題点
私は何度も鳴子温泉を訪れていますが、個人的な感想としては鳴子町に鳴子温泉を行政の立場からバックアップして、町の活性化につなげようという意思はまったく感じとることはできません。観光の目玉の一つである共同浴場の早稲田桟敷湯にしても、名前が早稲田湯とついているものの早稲田大学とはまったく関係のない地区住民の共同湯を一般開放しているだけです。ましてや早稲田大学の有名な教授に高い設計費用を払ってまで、あのような施設を造るとは信じがたい暴挙だと思います。早稲田大学がボランティアで設計したのであれば、あの建築は許せますが鳴子町が第3セクターまでつくって、そこから高い設計料を払って建設したというのですから開いた口がふさがりません。確かに鳴子には入浴休憩できる、日帰り温泉施設がないのはわかりますが、源泉がそこら中にあるのにわざわざあのような場所にあのような施設をつくることはないと思います。
(4)豊富な源泉の活用
鳴子温泉ファンとして第三者的立場から言わせていただくと、これだけ源泉が豊富でなお且つ泉質的にもすばらしいものがありながら、それがうまく温泉街の活性化に繋がっておらず、衰退の道を辿っているというのは非常に悲しいことだと思います。一般客を呼ぶための方策はいくらでもあると思います。他の温泉地ではまねしようにもできない豊富な源泉を活用すれば活路は開けてくるのではないでしょうか。時代はようやく源泉掛け流しを売りものにできる環境になりつつあります。
たとえば、捨てるほどある各旅館の源泉で小規模な外湯を30ヶ所以上つくるのです。それを無料(あるいは条件付で)開放して、鳴子外湯巡りでも始めれば(マナーの悪い客も現れますが)、十分に名物となり得、確実に全国の温泉ファンから注目を浴びると思われます。草津や野沢や渋などは外湯がたくさんありますが、泉質的にはあまり変化がなく、幾つか廻ると飽きてしまうという欠点があります。それでも普段温泉にあまり関心のないような宿泊者が、浴衣がけで楽しそうに外湯巡りをしています。その点鳴子は泉質はたくさんあるので、特徴のある泉質ごとに外湯を造れば、かなりの温泉ファンを呼べるのではないかと思います。ゆかた姿で外湯巡りをする観光客が増えれば、保守的な商店街も変わらざるを得ないのではないでしょうか。私は鳴子温泉で浴衣がけで歩いているお客さんを「滝の湯」の前でしか見たことがありません。
(5)最後に
とにかく個人的に日本一の温泉地と思っている鳴子温泉が、このまま寂れてしまうのは何と言っても悲しすぎるので、今回はやや辛口の論調になってしましました。各旅館、商店街、行政とが一緒になって努力し21世紀にも繁栄しつづける温泉地でありつづけて欲しいと思います。
鳴子の土地の狭さなどどうにもできない問題はあるものの、何とか頑張って欲しいです。最後にある旅館の社長さんから恐ろしいことを聞かされました。「今は豊富な鳴子の温泉も数十年したら枯れてしまうかもしれない」というものでした。鳴子の温泉は浅いところから湧き出しているため、現在湧いているものは数十年前の雨水が地下に潜ったものが温泉成分を伴って出てきたものです。しかし現在は水源である山の方がゴルフ場になったり、舗装道路が多くなり地面にしみていく水そのものが減っているので、やがて湧き出し量が劇的に減るのではないかというものでした。妙に説得力がある内容でした。そのようなことがないよう、子供たち孫達にもこの素晴らしい鳴子温泉を楽しんでもらえることを祈らずにはいられません。
また、鳴子温泉に行くたびに屋代@鳴子さんに大変お世話になりました。この場をお借りして御礼させていただきます。
屋代@鳴子さん:a-g@remus.dti.ne.jp HP:http://www.narukospa.com/
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