1.プロローグ
北海道は随分前に観光で訪れたことはあったが、温泉目当てで訪れるのは今回が初めてだ。きっかけは北海道の北部に豊富温泉というアブラ臭ぷんぷんの温泉があるという話を聞いてしまったためだ。その温泉はアブラ臭が超強烈で、私が愛してやまない新潟の新津温泉などは赤子も同然というぐらい凄いということだ。それ以来豊富温泉のことが気になって気になって仕方がなくなってしまった。何としても自分の鼻でその真実を確認すべく、ついに北海道遠征を決意してしまった。北海道遠征のために払った犠牲も大きかったが(涙)、豊富温泉を訪れる算段を何とかつけることができた。
実は今回の豊富温泉に行くという機会があるまでは北海道の温泉にはあまり興味がなかった。温泉目当てに北海道に行ける確率がとても低かったからだ。(とても家族からOKをもらう自信がなかった)なので北海道の温泉および地理に関してはちんぷんかんぷんであった。だいたい豊富温泉がどこにあるかさえ、最初は地図を眺めてもさっぱりわからなかった。そして調べるにつけ豊富温泉の周辺は温泉不毛地帯で、新興の豪華公共センター系温泉がぽつぽつできている程度だということがわかってきた。しかも道北は温泉と温泉の間の距離が半端じゃなく長い。何ヶ所廻れるかまったく見当が付かなかったが、興味のある温泉を幾つかピックアップして廻るコースだけは大まかに決定しておいた。それにしても豊富温泉が日本一のアブラ臭温泉だというのは本当なのだろうか?
2.初めての北海道の温泉
全身アブラまみれになりシアワセな気分でいっぱいの夢を見ている私を乗せた飛行機は朝の9時の定刻どおりに旭川空港へ到着した。思ったよりお客さんは多いようだ。まさか、みんな豊富温泉を目指しているわけではあるまい。空港から一歩外に出てみると想像していたよりも外気は寒くなく、どうやら長袖シャツ1枚で十分なようだ。まず、今回の遠征の足として使うレンタカーを借りに行った。ヴィッツを予約していたにも関わらず、なぜかカルディナのカーナビ付きにアップグレードされていた。これはラッキー、幸先がいいぞ!。しかし、悲しいかなカーナビの使い方が良くわからない。温泉名で検索しても情けないことに新興温泉は出てこない。仕方がないので適当に役場付近を設定して、出発だ。旭川から日本海側に出て海岸沿いの国道232号線を北上して豊富に向かうコースだ。ニュースでは強力な台風14号が私の後を追ってくるらしい。アブラ臭好きの台風なのか?
カーナビ君の言う通りに走っているとどうにも遠回りをさせられているような気がしてならないのだが、まったく土地勘のない場所で道に迷うよりは良いと割り切ってハンドルを握る。道は空いているが思ったより北海道の人は飛ばさないようだ。(後でこれは人によることが判明)灰色の空と灰色の日本海を眺めながら、目指す第一ポイントの苫前へ向けて一路ひた走る。ふと思い出したが朝からまだ何も食べていない。コンビニも見当たらないし、まあいいか、いつものことだ。旭川空港に降り立って3時間後、ようやく北海道に来て初めての温泉にたどり着くことができた。さて、いよいよ温泉巡りの開始だ。
3.苫前夕陽丘温泉「ふわっと」
記念すべき北海道の第一湯。とても豪華なセンター系で普通ならハズレを予感するほどだ。お湯は強食塩泉だが基本的に掛け流しになっているのは立派。加水はされているようだが、臭素臭の香る笹濁りのお湯には満足できる。特に露天が臭いも強くなかなかいい。宿泊もできるらしいが、これぐらいのお湯に浸かれて宿泊料金が格安なら宿泊を考えても良いと思う。
4.羽幌温泉「サンセットプラザ羽幌」
「ふわっと」からほど近い所にある、びびるくらい大規模な道の駅に併設された温泉施設だ。ここも強食塩泉のお湯だが、多分加水されて浴槽に張られているようだ。それでも心地の良い臭素臭は十分に感知できるので嬉しくなる。ここも宿泊できるようだ。
5.初山別温泉「岬センター」
全然期待しないで訪れたが、ここは素晴らしい。下足箱の入り口に「ここは循環ろ過の上塩素も入れています」の衝撃的な張り紙がある。せっかくここまで来たのだからと、やけくそな気分で突入したが、あら不思議!臭素臭がぷんぷん香るとても良い湯であった。塩素臭はまったしない。温泉マニアを遠ざけるための脅しの張り紙だったのだろうか?それとも物凄く源泉の素性が良いのだろうか?実態はよくわからないが、少なくとも浴槽に張られていたお湯は文句なく満足のいくものであった。北海道の温泉、恐るべし!
6.旭温泉
「岬センター」からは、かなり北上したしたところにある温泉だ。他の新興温泉とjは異なりここは昔から存在していたようだ。鄙びきった公共の入浴施設。東北の湯治場を思わせる佇まいだけでも満足できる。お湯は赤茶色の鉄泉。湧出量にあわせた源泉槽が極端に小さいのが微笑ましい。特別な泉質ではないがフンイキはとても良い。
7.天塩温泉「夕映」
かなり北のほうに上ったところにある、豪華なセンター系の施設だ。日本一悪臭と評判の温泉。外観を見る限りそんなに悪臭がするとはとても想像できない。浴室に入ると確かにアンモニア系の悪臭がぷんぷんする。これだけ綺麗な施設には全然つりあわない臭いだ。うーん、これはかなりの悪臭だ、正に便所臭がする!ただ新潟「西方の湯」より悪臭かと言われると反論せざるを得ない。臭いの質が異なるためだ。汚い話だが、小便系便所臭が「夕映」とすれば「西方の湯」は大便系便所臭と言えると思う。(笑)しかし、このような源泉を堂々と使用している施設の姿勢は立派だ。病み付きになりそう!湯口付近で臭いを嗅ぎすぎて少し頭がくらくらしてしまった。
8.稚内温泉「童夢」
多分、日本で一番北に位置する天然温泉だ。ここもとても立派な公共の施設。お湯のぬるぬる感が気持ちがいい。しかもお湯からは気持ちのよい臭素臭が香る。これは素晴らしい。源泉の素性がとてもよいのだと思う。あまり期待していなかっただけにかなり嬉しい。
9.稚内温泉「宗谷パレス」
「童夢」と同じ源泉を使用しており、ここもぬるぬるの臭素臭香る良い湯だ。ただ「童夢」に比べると、お湯の新鮮味に欠けるようだ。とは言え十分に臭いが残っているのには感心する。
10.稚内温泉「北の宿」(宿泊)
ここも「童夢」と同じ源泉を引いた民宿。循環だが源泉の素性が良いので臭素臭も十分に感知できる。民宿のお湯で臭素臭が香る温泉に浸かれるとは思わなかった。料金の割には食事も満足のいくもので、まあ合格点だ。ただ朝一番でお風呂に入ったら塩素臭がしたのには参った。これで稚内温泉を引き湯した温泉施設は全て湯破だ。
実は当初の計画では豊富温泉に宿泊して豊富温泉を完全湯破することにしていた。しかし直前に旅館の都合で一方的にキャンセルされてしまった。止む無く稚内温泉に宿泊を変更し、豊富温泉はピンポイントで攻めることにした。ちょっと豊富温泉の印象が悪くなったぞ。(ツール・ド・北海道の影響らしい)
11.豊富温泉「川島旅館」
さて念願の豊富温泉での第一湯だ。「ふれあいセンター」のすぐ前にある旅館。外観はともかく内部はかなり鄙びている。浴槽にはうす黄土色の温泉が溢れている。鼻の穴を最大に広げてくんくん臭いを嗅ぎまくるが期待したほどアブラ臭は感知できない。湯面に薄く油の膜ができているが、アブラ臭はたいしたことがない。おかしい。これぐらいのアブラ臭温泉なら本州にはたくさんあるぞ。日本一のアブラ臭温泉の話はガセネタか!?俺はいったい何しに北海道まで来たんだ。人には言えない代償をかなり払って来たというのに・・・。正に湯破の悲劇か。
12.豊富温泉「ふれあいセンター」
こんなはずではないと思いつつ翌朝気を取り直して大本命の「ふれあいセンター」を訪れる。朝一番の濃厚な温泉を堪能するためだ。ここの浴場は湯治用と一般浴用に分かれている。私は当然湯治用の浴場だ。湯治浴場のお湯ははっきり言ってアブラ混りの温泉だ。アブラ臭そのものは思ったよりは強くない。お湯から立ち昇るアブラ臭ははっきり言って新津温泉の方が強いと思う。ただ温泉そのものがアブラまみれなので身体がアブラでべとべとになり、アブラ臭もいつまでも皮膚に残る。タオルも何時までもアブラ臭が抜けない。
アブラ臭日本一とは言えないが、アブラ温泉日本一であるのは間違いないと思う。皮膚に染み入ったアブラ臭がなかなか消えない。これはアブラ臭好きにはたまらない。時間が経っても皮膚の臭いを嗅ぐといつでまでもアブラ臭がする。アブラ臭中毒患者にとってはとてもお得な温泉だ。一度で一日中アブラ臭を楽しめる。ここに入った後直ぐに飛行機に乗れば、アブラ臭好きのスチュワーデスを振り向かせることができるかもしれない。
ここの湯治浴場で札幌在住の「ごんぞうさん」と落ち合い、後半の湯巡りは「ごんぞうさん」に案内していただくことになった。初日は結局朝から一度も食事をとらなかったどころか、まったく観光もしなかったので、最終日はせっかく来たのだからと宗谷岬を訪れることにした。ご存知の通り宗谷岬は日本で最北端の地だ。実は私は日本の最南端の地と最西端の地は制覇していたので残るは最東端の地だけとなった。最東端はやっぱり北海道なのかな?
宗谷岬にて記念撮影
13.さるふつ温泉「さるふつ温泉」
「ごんぞうさん」の案内でさるふつ温泉へ超スピードで向かう。共同浴場的なフンイキのこじんまりした温泉施設だ。お湯は黄色味を帯びた食塩泉でとりたてて特徴のあるものではないが、ほのぼのしたフンイキは良いものがある。施設の直ぐ裏手で牛たちが草を食んでいた。
14.浜頓別温泉「ウイング」
山形・羽根沢温泉を上回るぬるぬるという前評判だったので期待して訪れた。確かにかなりぬるぬるする温泉だが、羽根沢温泉を上回るぬるぬるではないと思う。私は津軽平野にあるぬるぬるの食塩泉と同程度に感じたがいかがなものだろうか。一緒に入った「ごんぞうさん」もこの程度のぬるぬるなら北海道にはいくらでもあるとコメントしていた。
15.浜頓別温泉「北オホーツク荘」
源泉は「ウイング」と同じだが外観が猛烈に鄙びた国民宿舎だ。最初廃業しているかと思ったほどだ。フロントで聞いた話だが、本日は満室だと言う。不思議だ。狂信的なファンがいるのだろうか。ここもぬるぬる系のお湯だが、やはり羽根沢温泉を凌駕するほどではない。鄙びぶりに妙に感心してしまった。
16.歌登温泉「朝倉旅館」
立派な公共の温泉施設の奥にひっそりとある旅館だ。看板は出ていない。鄙び風情だが残念ながら浴場はリニューアル済み。我々が行くと気を利かせてジャグジーのスイッチを入れられて、これまで静かだった浴槽内がボコボコと凄いことになってしまった。丁重にお願いしてジャグジーを止めてもらい、落ち着いてお湯に浸かることができた。鉄泉系のお湯で赤茶けたものだ。しかし加熱しているにもかかわらず、かなり泡がくっつきアワアワになる。冷たい源泉を投入するとさらにアワアワになる。この源泉を飲むと実に美味い。甘味を抑えたサイダーだ。ここはかなり気に入ったが、リニューアル前に何としても訪れたてみたかった。
17.エピローグ
終わってみるとあっという間の二日間であったが、やはり北海道は広いとつくづく実感できた。特に豊富のあたりは牧場が多く点在しており、建物の違いを除けば東ヨーロッパの田舎の風景とそっくりなのには驚いた。今回は道北の新興温泉を中心に廻ったが、加水あるいは循環もしているのだろうが、しっかり温泉特有の臭いが残っていたのには正直驚いた。とてもいい感じの臭素臭をいたるところで嗅ぐことができたのは嬉しい誤算だ。特に日本海側の強食塩泉軍団はなかなか素晴らしかった。道北はもう行く機会はないかもしれないが、とても記憶と鼻にに残る温泉たちであったと思う。
そして豊富温泉だ。やはり噂どおり凄い温泉だと思う。あのぬるめのアブラの成分が入り混じったお湯にとっぷりつかっていると、何ともいえないほどの入浴感が感じられる。普通の温泉とは明らかに感覚が異なるのだ。それにしてもあのお湯に一日中浸かり続けたら、身体からどんな臭いがするのだろうか。文字通りアブラ臭ぷんぷんの「アブラ臭男」になるのだろうか。1時間ぐらい入っただけでも、なかなか全身から臭いがぬけなく、他の温泉に行っても常にアブラ臭が感知できてしまうほどであった。
豊富温泉といい天塩温泉といい今回は本当に臭いで満足できる温泉に出会えたことが嬉しい。今回初めて北海道の温泉を廻ってしまった以上、これから毎年訪れることになりそうだが、どんな理由を作って温泉巡りの日程を稼いだら良いのか頭が痛いことになりそうだ。
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